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第四巻 秋歌 (上) & 第五巻 秋歌 (下)


第四巻  秋 歌 上

285 中納言家持 神なびのみむろの山の葛かづらうら吹きかへす秋は來にけり 隠

286 崇□院御歌 いつしかと荻の葉むけの片よりにそそや秋とぞ風も聞ゆる 隠

287 藤原季通朝臣 この寝ぬる夜の間に秋は來にけらし朝けの風の昨日にも似ぬ 隠

288 後□大寺左大臣 いつも聞く麓の里とおもへども昨日にかはる山おろしの風 隠

289 藤原家隆朝臣 昨日だに訪はむと思ひし津の國の生田の森に秋は來にけり 隠

290 藤原秀能 吹く風の色こそ見えねたかさごの尾の上の松に秋は來にけり 隠

291 皇太后宮大夫俊成 伏見山松のかげよりみわたせばあくるたのもに秋風ぞ吹く 隠

292 藤原家隆朝臣 明けぬるかころもで寒しすがはらや伏見の里の秋の初風 隠

293 攝政太政大臣 深草の露のよすがをちぎりにて里をばかれず秋は來にけり 隠

294 右衞門督通具 あはれまたいかに忍ばむ袖のつゆ野原の風に秋は來にけり 隠

295 源具親 しきたへの枕のうへに過ぎぬなり露を尋ぬる秋のはつかぜ 隠

296 顯昭法師 みづぐきの岡の葛葉も色づきて今朝うらがなし秋のはつ風

297 越前 秋はただこころより置くゆふ露を袖のほかとも思ひけるかな

298 藤原雅經 昨日までよそにしのびし下荻のすゑ葉の露にあき風ぞ吹く 隠

298b 太上天皇 朝露のをかのかや原山風ににみだれて物は秋ぞかなしき 隠

299 西行法師 おしなべて物をおもはぬ人にさへ心をつくる秋のはつかぜ 隠

300 西行法師 あはれいかに草葉の露のこぼるらむ秋風立ちぬ宮城野の原 隠

301 皇太后宮大夫俊成 みしぶつき植ゑし山田に引板はへて又袖ぬらす秋は來にけり 隠

302 法性寺入道前關白太政大臣 朝霧や立田の山の里ならで秋來にけりとたれか知らまし

303 中務卿具平親王 夕暮は荻吹く風のおとまさる今はたいかに寝覺せられむ 隠

304 後□大寺左大臣 夕されば荻の葉むけを吹く風にことぞともなく涙落ちけり 隠

305 皇太后宮大夫俊成 荻の葉も契ありてや秋風のおとづれそむるつまとなりけむ 隠

306 七條院權大夫 秋來ぬと松吹く風も知らせけりかならず荻のうは葉ならねど 隠

307 藤原經衡 日を經つつ音こそまされいづみなる信太の森の千枝の秋かぜ 隠

308 式子内親王 うたたねの朝けの袖にかはるなりならすあふぎの秋の初風 隠

309 相模 手もたゆくならす扇のおきどころわするばかりに秋風ぞ吹く 隠

310 大貳三位 秋風は吹きむすべども白露のみだれて置かぬ草の葉ぞなき 隠

311 曾禰好忠 朝ぼらけ荻のうは葉の露みればややはださむし秋のはつかぜ 隠

312 小野小町 吹きむすぶ風はむかしの秋ながらありしにも似ぬ袖の露かな 隠

313 紀貫之 大空をわれもながめて彦星の妻待つ夜さへひとりかも寝む 隠

314 山部赤人 この夕べ降りくる雨は彦星のと渡るふねのかいのしづくか

315 權大納言長家 年を經て住むべき宿のいけ水は星合のかげも面馴れやせむ 隠
315b 宇治前關白太政大臣 契りけむ程はしらねど七夕のたえせぬけふの天の川なみ 隠

316 藤原長能 袖ひぢてわが手に結ぶ水のおもにあまつ星合の空を見るかな 隠

317 祭主輔親 雲間よりほしあひの空見渡せばしづこころなき天の川波 隠

318 大宰大貳高遠 たなばたの天の羽衣うちかさね寝る夜すずしき秋風ぞ吹く 隠

318d 大宰大貳高遠 なれぬればつらき心もありやとてたなばたつめのたれにちぎりし

319 小辨 たなばたの衣のつまはこころして吹きなかへしそ秋の初風 隠

320 皇太后宮大夫俊成 たなばたのと渡る舟の梶の葉にいく秋かきつ露のたまづさ

321 式子内親王 ながむればころもですずしひさかたの天の河原の秋の夕ぐれ 隠

322 入道前關白太政大臣 いかばかり身にしみぬらむたなばたのつま待つ宵の天の川風

323 權中納言公經 星あひの夕べすずしきあまの河もみぢの橋をわたる秋かぜ 隠

324 待賢門院堀河 たなばたのあふ瀬絶えせぬ天の河いかなる秋か渡り初めけむ 隠

325 女御徽子女王 わくらばに天の川浪よるながら明くる空にはまかせずもがな 隠

326 大中臣能宣朝臣 いとどしく思ひ消ぬべしたなばたの別のそでにおける白露 隠

327 紀貫之 たなばたは今やわかるるあまの河かは霧立ちて千鳥鳴くなり

328 前中納言匡房 河水に鹿のしがらみかけてけり浮きてながれぬ秋萩のはな 隠

329 從三位頼政 狩衣われとは摺らじ露しげき野原の萩のはなにまかせて 隠

330 權僧正永縁 秋萩を折らでは過ぎじ月くさの花ずりごろも露に濡るとも 隠

331 顯昭法師 萩が花まそでにかけて高圓のをのへの宮に領巾ふるやたれ

332 祐子内親王家紀伊 置く露もしづこころなく秋風にみだれて咲ける眞野の萩原 隠

333 柿本人麿 秋萩の咲き散る野邊の夕露に濡れつつ來ませ夜は更けぬとも 隠

334 中納言家持 さを鹿の朝立つ野邊の秋萩に玉と見るまで置けるしらつゆ 隠

335 凡河内躬恒 秋の野を分け行く露にうつりつつわが衣手は花の香ぞする

336 小野小町 たれをかもまつちの山の女郎花秋とちぎれる人ぞあるらし 隠

337 藤原元眞 女郎花野邊のふるさとおもひ出でて宿りし蟲の聲や戀しき

338 左近中將良平 夕さればたま散る野邊の女郎花まくらさだめぬ秋風ぞ吹く 隠

339 公猷法師 ふぢばかまぬしはたれともしら露のこぼれて匂ふ野べの秋風 隠

340 藤原清輔朝臣 薄霧のまがきの花の朝じめり秋は夕べとたれかいひけむ 隠

341 皇太后宮大夫俊成 いとかくや袖はしをれし野邊に出でて昔も秋の花は見しかど 隠

342 大納言經信 花見にと人やりならぬ野邊に來て心のかぎりつくしつるかな 隠

343 曾禰好忠 おきてみむと思ひし程に枯れにけり露よりけなる朝顏の花 隠

344 紀貫之 山がつの垣ほに咲ける朝顏はしののめならで逢ふよしもなし 隠

345 坂上是則 うらがるる淺茅が原のかるかやの亂れて物を思ふころかな 隠

346 柿本人麿 さを鹿のいる野のすすき初尾花いつしか妹が手枕にせむ 隠

347 よみ人知らず をぐら山ふもとの野邊の花薄ほのかに見ゆる秋のゆふぐれ 隠

348 女御徽子女王 ほのかにも風は吹かなむ花薄むすぼほれつつ露にぬるとも 隠

349 式子内親王 花薄まだ露ふかし穂に出でばながめじとおもふ秋のさかりを 隠

350 八條院六條 野邊ごとにおとづれわたる秋風をあだにもなびく花薄かな 隠

351 左衞門督通光 明けぬとて野邊より山に入る鹿のあと吹きおくる萩の下風 隠

352 前大僧正慈圓 身にとまる思を荻のうは葉にてこのごろかなし夕ぐれの空 隠

353 大藏卿行宗 身のほどをおもひつづくる夕ぐれの荻の上葉に風わたるなり 隠

354 源重之女 秋はただものをこそ思へ露かかる荻のうへ吹く風につけても 隠

355 藤原基俊 秋風のややはださむく吹くなべに荻の上葉のおとぞかなしき 隠

356 攝政太政大臣 荻の葉に吹けば嵐の秋なるを待ちける夜半のさをしかの聲 隠

357 攝政太政大臣 おしなべて思ひしことのかずかずになほ色まさる秋の夕暮 隠

358 攝政太政大臣 暮れかかるむなしき空の秋を見ておぼえずたまる袖の露かな 隠

359 攝政太政大臣 物おもはでかかる露やは袖に置くながめてけりな秋の夕暮 隠

360 前大僧正慈圓 み山路やいつより秋の色ならむ見ざりし雲のゆふぐれの空

361 寂蓮法師 さびしさはその色としもなかりけりまき立つ山の秋の夕暮 隠

362 西行法師 心なき身にもあはれは知られけりしぎたつ澤の秋の夕ぐれ 隠

363 藤原定家朝臣 見わたせば花も紅葉もなかりけり浦のとまやの秋の夕ぐれ

364 藤原雅經 たへでやは思ありともいかがせむ葎のやどの秋のゆふぐれ 隠

365 宮内卿 思ふことさしてそれとはなきもの秋の夕べを心にとぞとふ

366 鴨長明 秋風のいたりいたらぬ袖はあらじただわれからの露の夕暮

367 西行法師 おぼつかな秋はいかなる故のあればすずろに物の悲しかるらむ 隠

368 式子内親王 それながら昔ににもあらぬ秋風にいとどながめをしづのをだまき 隠

369 藤原長能 ひぐらしのなく夕暮ぞ憂かりけるいつもつきせぬ思なれども 隠

370 和泉式部 秋來れば常磐の山の松風もうつるばかりに身にぞしみける 隠

371 曾禰好忠 秋風の四方に吹き來る音羽山なにの草木かのどけかるべき 隠

372 相模 あかつきの露もなみだもとどまらで恨むる風の聲ぞのこれる 隠

373 藤原基俊 高圓の野路のしの原末さわぎそそや木がらし今日吹きぬなり 隠

374 右衞門督通具 ふかくさの里の月かげさびしさもすみこしままの野邊の秋風

375 皇太后宮大夫俊成女 大荒木のもりの木の間をもりかねて人だのめなる秋の夜の月 隠

376 藤原家隆朝臣 有明の月待つやどの袖のうへに人だのめなる宵のいなづま 隠

377 藤原有家朝臣 風わたる淺茅がすゑの露にだにやどりもはてぬ宵のいなづま 隠

378 左衞門督通光 武藏野や行けども秋のはてぞなきいかなる風か末に吹くらむ 隠

379 前大僧正慈圓 いつまでかなみだくもらで月は見し秋待ちえても秋ぞ戀しき 隠

380 式子内親王 ながめわびぬ秋より外の宿もがな野にも山にも月やすむらむ 隠

381 圓融院御歌 月影の初秋風とふきゆけばこころづくしにものをこそ思へ 隠

382 三條院御歌 あしびきの山のあなたに住む人は待たでや秋の月を見るらむ 隠

383 堀河院御歌 しきしまや高圓山の雲間よりひかりさしそふゆじはりの月 隠

384 堀河右大臣 人よりも心のかぎりながめつる月はたれともわかじものゆゑ

385 橘爲仲朝臣 あやなくも曇らぬ宵をいとふかなしのぶの里の秋の夜
の月 隠

386 法性寺入道前關白太政大臣 風吹けば玉散る萩のした露にはかなくやどる野邊の月かな

387 從三位頼政 今宵たれすず吹く風を身にしめて吉野の嶽の月を見るらむ 隠

388 大宰大貳重家 月見れば思ひぞあへぬ山高みいづれの年の雪にかあるらむ 隠

389 藤原家隆朝臣 鳰のうみや月のひかりのうつろへば浪の花にも秋は見えけり 隠

390 前大僧正慈圓 ふけゆかばけぶりもあらじしほがまのうらみなはてそ秋の夜の月 隠

391 皇太后宮大夫俊成女 ことわりの秋にはあへぬ涙かな月のかつらもかはるひかりに 隠

392 藤原家隆朝臣 ながめつつ思ふも寂しひさかたの月のみやこの明けがたの空 隠

393 攝政太政大臣 故郷のもとあらのこ萩咲きしより夜な夜な庭の月ぞうつろふ 隠

394 攝政太政大臣 時しもあれふるさと人はおともせでみ山の月に秋風ぞ吹く 隠

395 攝政太政大臣 深からぬ外山の庵のねざめだにさぞな木の間の月はさびしき

396 寂蓮法師 月は猶もらぬ木の間もすみよしの松をつくして秋風ぞ吹く 隠

397 鴨長明 ながむればちぢにもの思ふ月にまたにわが身一つの嶺の松かぜ 隠

398 藤原秀能 あしびきの山路の苔の露のうへにねざめ夜深き月をみるかな 隠

399 宮内卿 心あるをじまの海士のたもとかな月宿れとは濡れぬものから 隠

400 宜秋門院丹後 わすれじな難波の秋の夜半の空こと浦にすむ月は見るとも 隠

401 鴨長明 松島やしほ汲む海士の秋の袖月はもの思ふならひのみかは 隠

402 七條院大納言 こと問はむ野島が崎のあまごろも波と月とにいかがしをるる 隠

403 藤原家隆朝臣 秋の夜の月やをじまのあまのはら明がたちかき沖の釣舟 隠

404 前大僧正慈圓 憂き身にはながむるかひもなかりけり心に曇る秋の夜の月 隠

405 大江千里 いづくにか今宵の月の曇るべきをぐらの山も名をやかふらむ

406 源道濟 心こそあくがれにけれ秋の夜のよふかき月をひとり見しより 隠

407 上東門院小少將 かはらじな知るも知らぬも秋の夜の月待つほどの心ばかりは 隠

408 和泉式部 たのめたる人はなけれど秋の夜は月見て寝べきここちこそせね 隠

409 藤原範永朝臣 見る人の袖をぞしぼる秋の夜は月にいかなるかげか添ふらむ 隠

410 相模 身に添へるかげとこそ見れ秋の月袖にうつらぬをりしなければ 隠

411 大納言經信 月影の澄みわたるかな天の原雲吹きはらふ夜半のあらしに 隠

412 左衞門督通光 たつた山夜半にあらしの松吹けば雲にはうときみねの月かげ

413 左京大夫顯輔 秋風にたなびく雲のたえまよりもれ出づる月の影のさやけさ 隠

414 道因法師 山の端に雲のよこぎる宵の間は出でても月ぞなほ待たれける 隠

415 殷富門院大輔 眺めつつ思ふに濡るるたもとかないくよかは見む秋の夜の月 隠

416 式子内親王 宵の間にさてもやぬべき月ならば山の端近きものは思はじ 隠

417 式子内親王 ふくるまでながむればこそ悲しけれ思ひもいれじ秋の夜の月 隠

418 攝政太政大臣 雲はみなはらひはてたる秋風を松にのこして月をみるかな 隠

419 攝政太政大臣 月だにもなぐさめがたき秋の夜のこころも知らぬ松の風かな 隠

420 藤原定家朝臣 さむしろや待つ夜の秋の風ふけて月をかたしく宇治の橋姫 隠

421 右大將忠經 秋の夜のながきかひこそなかりけれまつにふけぬる有明の月

422 攝政太政大臣 行くすゑは空もひとつのむさし野に草の原より出づる月かげ 隠

423 宮内卿 月をなほ待つらむものかむらさめの晴れゆく雲のすゑ里人 隠

424 右衞門督通具 秋の夜はやどかる月も露ながら袖に吹きこす荻のうはかぜ 隠

425 源家長 秋の月しのにやどかる影たけておざさが原に露ふけにけり

426 前太政大臣 風わたる山田のいほをもる月や穂波にむすぶ氷なるらむ

427 前大僧正慈圓 雁の來る伏見の小田に夢覺めて寝ぬ夜の庵に月をみるかな 隠

428 皇太后宮大夫俊成女 稻葉吹く風にまかせて住む庵は月ぞまことにもりあかしける 隠

429 皇太后宮大夫俊成女 あくがれて寝ぬ夜の塵のつもるまで月にはらはぬ床のさむしろ

430 大中臣定雅 秋の田のかりねの床のいなむしろ月やどれともしける露かな 隠

431 左京大夫顯輔 秋の田に庵さす賤の苫をあらみ月とともにやもり明かすらむ 隠

432 式子内親王 秋の色はまがきにうとくなりゆけど手枕馴るるねやの月かげ 隠

433 太上天皇 秋の露やたもとにいたく結ぶらむ長き夜飽かずやどる月かな 隠

434 左衞門督通光 さらにまた暮をたのめと明けにけりつきはつれなき秋の夜の空

435 二條院讃岐 おほかたの秋のねざめの露けくはまた誰が袖にありあけの月 隠

436 藤原雅經 拂ひかねさこそは露のしげからめ宿るか月の袖のせばきに 隠

第五巻  秋 歌 下

437 藤原家隆朝臣 下紅葉かつ散る山の夕時雨濡れてやひとり鹿の鳴くらむ 隠

438 入道左大臣 山おろしに鹿の音高く聞ゆなり尾上の月にさ夜や更けぬる

439 寂蓮法師 野分せし小野の草ぶし荒れはててみ山に深きさをしかの聲 隠

440 俊惠法師 嵐吹く眞葛が原に啼く鹿はうらみてのみや妻を戀ふらむ 隠

441 前中納言匡房 妻戀ふる鹿のたちどを尋ぬればさやまが裾に秋かぜぞ吹く 隠

441b 惠慶法師 高砂の尾上にたてる鹿の音にことのほかにもぬるる袖かな 隠

442 惟明親王 み山べの松のこずゑをわたるなり嵐にやどすさをしかの聲 隠

443 土御門内大臣 われならぬ人もあはれやまさるらむ鹿鳴く山の秋のゆふぐれ 隠

444 攝政太政大臣 たぐへくる松の嵐やたゆむらむおのえにかへるさを鹿の聲 隠

445 前大僧正慈圓 鳴く鹿の聲に目ざめてしのぶかな見はてぬ夢の秋の思を 隠

446 權中納言俊忠 夜もすがらつまどふ鹿の鳴くなべに小萩が原の露ぞこぼるる 隠

447 源道濟 寝覺して久しくなりぬ秋の夜は明けやしぬらむ鹿ぞ鳴くなる 隠

448 西行法師 小山田の庵ちかく鳴く鹿の音におどろかされて驚かすかな 隠

449 中宮大夫師忠 やまざとの稻葉の風に寝覺して夜ふかく鹿の聲を聞くかな 隠

450 藤原顯綱朝臣 ひとり寝やいとど寂しきさを鹿の朝臥す小野の葛のうら風 隠

451 俊惠法師 立田山梢まばらになるままに深くも鹿のそよぐなるかな 隠

452 權大納言長家 過ぎて行く秋の形見にさを鹿のおのが鳴く音も惜しくやあるらむ 隠

453 前大僧正慈圓 わきてなど庵守る袖のしをるらむ稻葉にかぎる秋の風かは 隠

454 よみ人知らず 秋田守る假庵つくりわがをればころも手さむみ露ぞ置きくる

455 前中納言匡房 秋來ればあさけの風の手をさむみ山田の引板を任せてぞきく 隠

456 善滋爲政朝臣 郭公鳴くさみだれに植ゑし田をかりがねさむみ秋ぞ暮れぬる 隠

457 中納言家持 今よりは秋風寒くなりぬべしいかでかひとり長き夜を寝む 隠

458 柿本人麿 秋しあれば雁のつばさに霜振りて寒き夜な夜な時雨さへ降る 隠

459 柿本人麿 さを鹿のつまどふ山の岡べなる早稻田は刈らじ霜は置くとも 隠

460 紀貫之 刈りてほす山田の稻は袖ひぢて植ゑしさ苗と見えずもあるかな 隠

461 菅贈太政大臣 草葉には玉と見えつつわび人の袖のなみだの秋のしらつゆ 隠

462 中納言家持 わが宿の尾花がすゑにしら露の置きし日よりぞ秋風も吹く 隠

463 惠慶法師 秋といへば契り置きてや結ぶらむ淺茅が原の今朝のしら露 隠

464 柿本人麿 秋されば置くしら露にわがやどの淺茅が上葉色づきにけり 隠

465 天暦御歌 おぼつかな野にも山にも白露のなにごとをかは思ひおくらむ

466 堀河右大臣 露繁み野邊を分けつつから衣濡れてぞかへる花のしづくに 隠

467 藤原基俊 庭のおもにしげる蓬にことよせて心のままに置ける露かな 隠

468 贈左大臣長實 秋の野の草葉おしなみ置く露に濡れてや人の尋ね行くらむ

469 寂蓮法師 物思ふそでより露やならひけむ秋風吹けば堪へぬものとは 隠

470 太上天皇 露は袖に物思ふ頃はさぞな置くかならず秋のならひならねど

471 太上天皇 野原より露のゆかりをたづね來てわが衣手に秋かぜぞ吹く

472 西行法師 きりぎりす夜寒に秋のなるままに弱るか聲の遠ざかり行く 隠

473 藤原家隆朝臣 蟲の音もながき夜飽かぬふるさとになほ思ひそふ松風ぞ吹く 隠

474 式子内親王 跡もなき庭の淺茅にむすぼほれ露のそこなる松蟲のこゑ 隠

475 藤原輔尹朝臣 秋風は身にしむばかり吹きにけり今や打つらむ妹がさごろも 隠

476 前大僧正慈圓 衣うつおとは枕にすがはらやふしみの夢をいく夜のこしつ 隠

477 權中納言公經 衣うつみ山の庵のしばしばも知らぬゆめ路にむすぶ手枕 隠

478 攝政太政大臣 里は荒れて月やあらぬと恨みてもたれ淺茅生に衣打つらむ 隠

479 宮内卿 まどろまで眺めよとてのすさびかな麻のさ衣月にうつ聲 隠

480 藤原定家朝臣 秋とだにわすれむと思ふ月影をさもあやにくにうつ衣かな 隠

481 大納言經信 故里に衣うつとは行く雁や旅のそらにも鳴きて告ぐらむ 隠

482 紀貫之 雁なきて吹く風さむみ唐衣君待ちがてにうたぬ夜ぞなき 隠

483 藤原雅經 みよし野の山の秋風さ夜ふけてふるさと寒くころもうつなり 隠

484 式子内親王 千たびうつ砧のおとに夢さめて物おもふ袖の露ぞくだくる 隠

485 式子内親王 ふけにけり山の端ちかく月さえてとをちの里に衣うつこゑ 隠

486 藤原道信朝臣 秋果つるさ夜ふけがたの月見れば袖ものこらず露ぞ置きける 隠

487 藤原定家朝臣 ひとり寝る山鳥の尾のしだり尾に霜おきまよふ床の月かげ 隠

488 寂蓮法師 ひと目見し野邊のけしきはうらがれて露のよすがに宿るつきかな 隠

489 大納言經信 秋の夜はころもさむしろかさねても月の光にしく物ぞなき 隠

490 花山院御歌 秋の夜ははや長月になりにけりことありなりや寝覺せらるる 隠

491 寂蓮法師 村雨の露もまだひぬまきの葉に霧たちのぼる秋のゆふぐれ 隠

492 太上天皇 さびしさはみ山の秋の朝ぐもり霧にしをるるまきの下露

493 左衞門督通光 あけぼのや川瀬の波のたかせ舟くだすか人の袖のあきぎり

494 權大納言公實 ふもとをば宇治の川霧たち籠めて雲居に見ゆる朝日山かな 隠

495 曾禰好忠 やま里に霧のまがきのへだてずは遠方人の袖も見てまし 隠

496 清原深養父 鳴く雁の音をのみぞ聞く小倉山霧たち晴るる時にしなければ 隠

497 柿本人麿 垣ほなる荻の葉そよぎ秋風の吹くなるなべに雁ぞ鳴くなる 隠

498 柿本人麿 秋風に山飛び越ゆるかりがねのいや遠ざかり雲がくれつつ

499 凡河内躬恒 はつ雁の羽かぜすずしくなるなべにたれか旅寝の衣かへさぬ

500 よみ人知らず 雁がねは風にきほひて過ぐれどもわが待つ人のことづてもなし 隠

501 西行法師 横雲の風にわかるるしののめに山飛びこゆる初雁の聲 隠

502 西行法師 白雲をつばさにかけて行く雁の門田のおもの友したふなる 隠

503 前大僧正慈圓 大江山傾く月のかげさえて鳥羽田の面に落つるかりがね 隠

504 朝惠法師 むら雲や雁の羽風に晴れぬらむ聲聞く空に澄める月かげ

505 皇太后宮大夫俊成女 吹きまよふ雲ゐをわたる初雁のつばさにならす四方の秋風 隠

506 藤原家隆朝臣 秋風の袖に吹きまく峯の雲をつばさにかけて雁も鳴くなり 隠

507 宮内卿 霜を待つ籬の菊のよひの間に置きまよふいろは山の端の月 隠

508 花園左大臣室 九重にうつろひぬともしら菊のもとのまがきを思ひわ�
��るな 隠

509 權中納言定頼 今よりはまた咲く花もなきものをいたくな置きそ菊の上の露 隠

510 中務卿具平親王 秋風にしをるる野邊の花よりも蟲の音いたくかれにけるかな 隠

511 大江嘉言 寝覺する袖さへさむく秋の夜のあらし吹くなり松蟲のこゑ 隠

512 前大僧正慈圓 秋を經てあはれも露もふかくさの里とふものは鶉なりけり 隠

513 左衞門督通光 いり日さすふもとの尾花うちなびきたが秋風に鶉啼くらむ

514 皇太后宮大夫俊成女 あだに散る露のまくらに臥しわびて鶉鳴くなる床の山かぜ 隠

515 皇太后宮大夫俊成女 とふ人もあらし吹きそふ秋は來て木の葉に埋む宿の道しば 隠

516 皇太后宮大夫俊成女 色かはる露をば袖に置き迷ひうらがれてゆく野邊の秋かな 隠

517 太上天皇 秋ふけぬ鳴けや霜夜のきりぎりすやや影さむしよもぎふの月 隠

518 攝政太政大臣 きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣かたしきひとりかも寝む 隠

519 春宮權大夫公繼 寝覺する長月の夜の床さむみ今朝吹くかぜに霜や置くらむ

520 前大僧正慈圓 秋ふかき淡路の島のありあけにかたぶく月をおくる浦かぜ 隠

521 前大僧正慈圓 長月もいくありあけになりぬらむ淺茅の月のいとどさびゆく 隠

522 寂蓮法師 鵲の雲のかけはし秋暮れて夜半には霜や冴えわたるらむ 隠

523 中務卿具平親王 いつの間に紅葉しぬらむ山ざくら昨日か花の散るを惜しみし 隠

524 高倉院御歌 薄霧のたちまふ山のもみぢ葉はさやかならねどそれと見えける

525 八條院高倉 神なびのみむろの梢いかならむなべての山も時雨するころ 隠

526 太上天皇 鈴鹿川ふかき木の葉に日かずへて山田の原の時雨をぞ聞く

527 皇太后宮大夫俊成 心とや紅葉はすらむたつた山松は時雨に濡れぬものかは 隠

528 藤原輔尹朝臣 思ふ事なくてぞ見ましもみぢ葉をあらしの山の麓ならずは 隠

529 曾禰好忠 入日さす佐保の山べのははそ原曇らぬ雨とこの葉降りつつ 隠

530 宮内卿 立田山あらしや峯によわるらむわたらぬ水も錦絶えけり 隠

531 攝政太政大臣 柞原しづくも色やかはるらむ森のしたくさ秋ふけにけり 隠

532 藤原定家朝臣 時わかぬ浪さへ色にいづみ川ははその森にあらし吹くらし 隠

533 源俊頼朝臣 故郷は散るもみぢ葉にうづもれて軒のしのぶに秋風ぞ吹く 隠

534 式子内親王 桐の葉もふみ分けがたくなりにけり必ず人を待つとならねど 隠

535 曾禰好忠 人は來ず風に木の葉は散りはてて夜な夜な蟲の聲よわるなり 隠

536 春宮權大夫公繼 もみぢ葉の色にまかせて常磐木も風にうつろふ秋の山かな

537 藤原家隆朝臣 露時雨もる山かげのした紅葉濡るとも折らむ秋のかたみに 隠

538 西行法師 松にはふ正木のかづら散りにけり外山の秋は風すさぶらむ 隠

539 前參議親隆 鶉鳴く交野に立てる櫨紅葉散りぬばかりに秋かぜぞ吹く 隠

540 ニ條院讃岐 散りかかる紅葉の色は深けれど渡ればにごるやまがはの水 隠

541 柿本人麿 飛鳥川もみぢ葉ながる葛城の山の秋かぜ吹きぞしくらし 隠

542 權中納言長方 あすか川瀬々に波よるくれなゐや葛城山のこがらしのかぜ 隠

543 權中納言公經 もみぢ葉をさこそあらしの拂ふらめこの山もとも雨と降るなり 隠

544 攝政太政大臣 立田姫いまはのころの秋かぜにしぐれをいそぐ人の袖かな 隠

545 權中納言兼宗 行く秋の形見なるべきもみぢ葉も明日は時雨と降りやまがはむ

546 前大納言公任 うち群れて散るもみぢ葉を尋ぬれば山路よりこそ秋はゆきけれ

547 能因法師 夏草のかりそめいとて來しかども難波のうらに秋ぞ暮れぬる 隠

548 能因法師 かくしつつ暮れぬる秋と老いぬれどしかすがに猶物ぞ悲しき 隠

549 守覺法親王 身にかへていざさは秋を惜しみ見むさらでももろき露の命を

550 前太政大臣 なべて世の惜しさにそへて惜しむかな秋より後の秋の限りを

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